歌をレコーディングして家族に残すときの著作権
好きな曲を歌って録音し、形に残したい。このとき最も多い失敗は、作ったあとで「使えない」と分かることです。
権利の扱いは、曲そのものではなく用途によって変わります。家族で聴くだけなのか、配るのか、公開するのか。ここを先に決めておけば、ほとんどの問題は起きません。逆に、決めずに作ってから考えると手戻りになります。
この記事では、用途ごとに何が必要かを整理します。
以下は一般的な情報の整理です。個別の楽曲、契約状況、利用形態によって結論は変わります。実際の利用にあたっては管理団体や制作事業者にご確認ください。法的な判断が必要な場合は弁護士等の専門家にご相談ください。
1. 用途別の早見表
| 用途 | 手続き | 注意点 |
|---|---|---|
| 同居の家族で聴く | 原則不要 | 著作権法30条の範囲に収まる |
| 別世帯の親戚に配る | 要確認 | 私的使用の範囲を超える可能性 |
| 葬儀の参列者に配る | 要確認 | 配布枚数と対象が広い |
| YouTubeに公開 | 原則不要 (自ら歌唱の場合) | 伴奏に市販音源は使えない |
| 販売する | 要手続き | 本記事の想定外。個別に権利処理が必要 |
| 葬儀式場で流す | 式場に確認 | 運用が事業者により異なる |
2. 関わる権利は2種類ある
混乱しやすいのは、ひとつの音源に性質の違う権利が二重にかかっているためです。
著作権(作詞・作曲に対する権利)
曲を作った人と詞を書いた人の権利です。日本ではJASRACやNexToneといった管理団体が、多くの楽曲について権利者から委託を受けて管理しています。
著作隣接権(原盤に対する権利)
「その音源を作った人」の権利で、原盤権とも呼ばれます。市販のCDや配信音源、カラオケ店の伴奏には、レコード会社や制作者のこの権利がかかっています。
この区別が実務上いちばん重要です。「JASRACの手続きをすれば市販音源を使える」と誤解されることがありますが、両者は別物です。作詞作曲の許諾を得ても、他人が作った音源をそのまま使うことはできません。
自分で歌い、伴奏も自前で用意するなら、関わるのは著作権だけになります。制作の現場で伴奏を新たに作るのは、音質のためだけでなくこの理由もあります。
3. 家庭内で聴く場合
著作権法第30条は、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合の複製を認めています。私的使用のための複製と呼ばれる規定です。
親の歌を録音し、その音源を家族で聴く。この用途であれば通常この範囲に収まり、個別の手続きは必要ありません。曲目の制限も実質的にありません。
この場合、曲は自由に選べます。思い入れのある曲、海外の曲、古い曲、どれでも構いません。制作を依頼する場合も、この用途に限るなら曲選びで悩む必要はありません。
4. 配る場合
ここから扱いが変わります。30条が認めているのは「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」であって、その外に渡す行為は想定されていません。
具体的に問題になりやすいのは次のようなケースです。
- 別世帯に住む兄弟姉妹、子、孫それぞれにCDを作って渡す
- 親戚一同に配る
- 葬儀や法要の参列者への返礼品として配る
- 友人や知人に譲る
枚数が増えるほど、また対象が家族から離れるほど、私的使用の範囲から外れていきます。配布の予定があるなら、曲を決める前に相談してください。曲によっては許諾を得て配布できる場合もありますし、別の曲を選ぶという判断もあり得ます。
5. インターネットで公開する場合
ネット上に上げると、複製とは別に公衆送信権が関わります。ただし実務上は、プラットフォーム側の契約状況で大きく変わります。
YouTubeなど、包括契約のあるサービス
YouTubeをはじめとする主要な動画投稿サービスは、JASRACなどの管理団体と包括的な利用許諾契約を結んでいます。このため、投稿者が自分で歌唱・演奏したカバーについては、個別に申請や使用料の支払いを行う必要は原則としてありません。
よくある誤解として「YouTubeとJASRACが契約しているから何を上げてもいい」というものがありますが、これは正しくありません。カバーされるのは自ら演奏・歌唱した場合であって、既存の音源をそのまま上げることは含まれません。
注意すべき点
- 包括契約の対象範囲はサービスごとに異なります。投稿先を変えるなら、その都度確認が必要です
- 管理団体に登録されていない楽曲は、包括契約の対象外です
- 収益化の有無で扱いが変わる場合があります
限定公開という選択肢
家族だけに見せたい場合、限定公開やパスワード付きの配信で足りることが多くあります。全世界に公開する必要が本当にあるのか、先に整理しておくと選択肢が広がります。
6. 伴奏をどうするか
公開を考えるなら、ここが実質的な分岐点になります。
| 伴奏の種類 | 家庭内で聴く | ネット公開 |
|---|---|---|
| 市販CDの音源 | 可 | 不可(原盤権) |
| 配信音源 | 可 | 不可(原盤権) |
| カラオケ店で録音 | 可 | 通常不可 |
| 自分たちで演奏 | 可 | 可 |
| 権利処理された制作音源 | 可 | 可 |
制作を依頼する場合、伴奏を新たに作るか、権利処理済みの音源を使うかで対応が変わります。将来公開する可能性が少しでもあるなら、最初から公開できる形で作っておくほうが安全です。あとから伴奏だけ差し替えることはできません。
7. 管理されていない楽曲
すべての曲が管理団体に登録されているわけではありません。次のような楽曲は、権利者に個別に確認する必要があります。
- 一部の海外楽曲
- 権利者が自主管理している楽曲
- 地域に伝わる歌、社歌、校歌など
- 誰が権利を持っているか不明な古い楽曲
曲が決まった段階で管理状況を調べる工程が入るのは、このためです。JASRACの作品データベースで検索すれば、管理下にあるかどうかは確認できます。
著作権の保護期間が満了している曲であれば、作詞作曲についての制約はなくなります。明治から昭和初期の唱歌や童謡には該当するものがあり、家族に残す一曲としてこうした曲が選ばれることもあります。
8. 葬儀や法要で流す場合
著作権法第38条は、営利を目的とせず、聴衆から料金を受けず、実演者に報酬が支払われない上演等について、一定の条件のもとで許諾を不要としています。葬儀での再生はこれに関係することが多いとされます。
ただし式場や葬儀社によって運用が異なり、包括契約を結んでいる場合もあります。実際に流す予定があるなら、葬儀社に事前に確認してください。当日になって流せないという事態は避けたいところです。
9. よくある質問
親の歌を録音して家族で聴くだけなら、手続きは必要ですか。
著作権法第30条により、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内で使用する目的の複製が認められています。同居の家族で聴く用途であれば通常この範囲に収まり、個別の手続きは不要です。
録音した歌をCDにして親戚に配ってもいいですか。
私的使用のための複製が認められるのは「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」です。別世帯の親戚や友人、葬儀の参列者に配る行為はこの範囲を超える可能性があります。配布の予定がある場合は事前に権利の確認が必要です。
録音した歌をYouTubeに公開できますか。
YouTubeはJASRACなどの管理団体と包括的な利用許諾契約を結んでいるため、自分で歌唱・演奏したカバーであれば投稿者の個別申請は原則不要です。ただし市販音源をそのまま伴奏に使うことはできず、管理団体に登録されていない楽曲は個別の許諾が必要です。
市販のCDのカラオケ音源を伴奏に使えますか。
市販音源には作詞作曲の著作権とは別に原盤権がかかっているため、公開を伴う用途では通常認められません。伴奏を自前で用意するか、権利処理された音源を使う必要があります。
カラオケ店で録音した音源をネットに公開できますか。
カラオケ店の伴奏音源にも製作者の権利があるため、通常認められていません。
校歌や社歌はどうなりますか。
管理団体に登録されていないことが多く、学校や企業などの権利者に個別に確認することになります。事情を説明すれば許諾を得られるケースもあります。
結局、何から決めればいいですか。
用途です。「家族で聴くだけ」「配る」「公開する」のどれかを先に決めれば、曲選びも伴奏の作り方も自動的に決まります。逆に用途が決まらないまま作ると、あとから制約に気づくことになります。